Vancouver

Director Ryuichi Hiroki

廣木隆一監督

これまでバンクーバー国際映画祭に度々招待されてきた廣木監督。 久しぶりに訪れたバンクーバーは高層ビルが多くなり、 ホテルの窓から見える風景が違っている と感心していた。1982年のデビューからこれまで多くの作品が批評家トニー・レインズ氏をはじめ海外プログラマーに推薦されてきた。コマーシャルはもちろんだが、ピンク、恋愛、青春など、特に女性を優しく扱った作品を中心に海外でも根強い人気がある。今回はVIFF本部のあるバンクーバー・サットンホテルでお話を伺った。

ジャンル分けにこだわらない

廣木監督といえば、2000年にVIFFに招待された映画『不貞の季節』を思い浮かべる人もいるだろう。ピンク映画ではなかったが、裸の入った作品でSM小説家とその妻との奇妙な恋愛関係を描いた作品で話題になった。さらに監督は少女漫画の映画化作品にも定評がある。例えば大ヒットした作品の『PとJK』では、警察官と16歳の女子高生との恋愛が描かれた。警察という仕事柄、未成年との交際など普通ではありえない関係だが、観客をその世界に引きずり込むために監督は、外見の関係よりも恋している二人のリアルさに目線をずらしたという。また「ピンク映画も恋愛映画も作る時は全て同じ」と意外な言葉がかえってきた。例えばピンクや恋愛映画の中にアクションを盛り込めば、その量によってカテゴリーも変われるからだ。

小説と映画

2015年に『彼女の人生は間違いじゃない』で小説家デビューして2017年に映画化している廣木監督。小説と映画の両方を自分で作れるというのは夢のようだが、監督は自分で小説を書くとその世界観から出られないと指摘する。そのため自分の小説を映画化する時は、脚本を別の人に任せ、ディスカッションをしながら進めていく。「他人の目を一つ入れる」ことが大事なポイントになるそうだ。また小説はいったん書き上げると作品が自分の中で完結するため、映画ではまた別のものを作ろうという気持ちで取りかかっている。違う目線になってまた新たに完結させたいとする反面、「つまらない原作だ、いったい誰が書いたんだ、あ、俺だ」と思ったことがあると監督は笑いながら話してくれた。

監督は映画『さよなら歌舞伎町』や今回の『ここは退屈迎えに来て』のような群像劇で、主人公が一人でなく複数の登場人物によって一つのテーマが見えてくるという映画作りを好む。例えばエピソードごとに主人公がいて地方で生活している人の様子など描くことにも興味があるそうだ。

世界初上映『ここは退屈迎えに来て』で今回は主演女優の橋本愛さんと一緒に来加した監督。カナダのプレスやラジオ局とのインタビュー、プレス・コンフェレンス、レッド・カーペットなど、アジア映画では異例な多忙スケジュールだが、「今回は現地の友達にも会うつもり」と気さくな笑顔で次の場所に向かった監督。現在取り組んでいる監督の次作品にも注目したい。

Actress Ai Hashimoto

女優 橋本愛

橋本愛さんがエレベーターに乗るとその瞬間周囲が黙ってしまう。若い女優さんだがファッションモデルっぽいスタイルとツヤツヤの黒髪でかなりの存在感がある。そして一言で「きれい」とうなずける女優である。バンクーバーに到着した彼女を待ち構えていたマスコミの中には、無断でムービー・カメラを持ち込もうとする姿もあった。映画『ここは退屈迎えに来て』のワールド・プレミア初日レッド・カーペットの前日、橋本さんはインタビューに応じてくれた。

橋本愛さんはベルリン国際映画祭でも数本の映画が同時招待されたことがある。様々な映画に出演しているが、ジャンルについては作品や作家のテーマなどに自分から興味を持ったり、心から共感することで作品づくりに入り込む。自分が惹かれることを常に大事にしているようだ。

正直に演じている

可愛くメルヘンチックなのにホラーもできる『アジアのクリステン・スチュワート』と時々マスコミで比較される彼女だが、「えー?」という声で笑い、役を演じる時はその瞬間の自分の「正直な声」に素直に対応していると答えた。例えばこれには惹かれないと思ったことはできるだけ自分から与えない、また自分はすごく好きだがリスクがあると思ったときは「好き」という気持ちを大事にして他の環境を整えてから役のしたいことを「やらさせてあげたい」と語る。今回の映画の「私」のような一人の平凡な女性役でもホラー役でも何でもやりたいと話す。「基本的に私は飽き症で、同じことをずっと続けられないから 」と笑った。

映画の中ではアットホームな雰囲気だったり、完璧な宇宙から来た『金星女性』だった橋本さん。役作りをしているのでなく役になりきっているように見えるのだがという質問にふと顔を上げ、「それが役者さんの理想だと思うんですけど…」と前置きし、「でもなっている、と自分で思ったことはめったにないです」と謙虚に話した。作品の中で、自分で見ている自分と人から見られている自分が全然違う時があり、自分の感覚は全く頼りにならないと思ったことがある。また漫画の役づくりは、読者の中に表情とか声のイメージが植え付けられているためプレッシャーになると思うとまじめに答えてくれた。

初めて来たバンクーバーは、海が近くて大きな公園があり、緑、水、高層ビルなど贅沢なぐらい何でもある街だった。いろいろな要素を感じながらぜひゆっくり歩いてみたいと語った。深々とお辞儀をして歩く後ろ姿は、日本の大物女優到来を感じさせた。

Director Kim Dae-Hwan 

“The FirstLap”

We all feel stuck at one point in our life. Are we heading towards the right direction or is it time to change? “The First Lap” is a beautiful film about a couple trying to be together and meeting each other’s family.  Marriage unites two people but also two families, and often the process is not that easy…

Director Kim Dae-Hwan had a similar experience.  Like many young people today, he also feared the economy and the politics around him.   When there was a tragic ferry boat accident in South Korea in 2014 not only young men and women, but also the older generation asked the same question: “Can our society afford to have future children?”

The movie reflects a modern problem in our society.  In many countries birth rate has decreased and almost everyone wants to succeed economically.  In South Korea, a lot of students like to attend university and work only in Seoul, the capital.  Not everyone can afford the high cost of education and the achievement for many is out of reach.

Director Kim is very careful about sending one particular message.  He likes to show the audience that there still are other possibilities in life.  “Just go ahead” he says, “ the process is important”.

So, Mr. Kim and his fiancé decided to get married after passing difficult times like the couple in his movie. The marriage is scheduled for next week, right after the Vancouver International Film Festival.  When the happy news was announced, the director smiled and thanked the cheering audience.

Director Kim’s last movies were both an international success. This movie delivered him the Best New Director Award at the 70th Locarno International Film Festival in Switzerland and his first movie “End of Winter” won the New Currents Award at the Busan International Film Festival.

It is a must-see movie, especially during winter. The ending is so special that it will keep you warm for a very, very long time.

Director Daihachi Yoshida

“A Beautiful Star”

吉田大八監督インタビュー

~自由とバランスが大事~

吉田大八監督といえば長編映画の他にテレビCM、ミュージック•ビデオ、テレビドラマ、ショート映画など多様に活躍している。2007年の長編デビュー作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』は、いきなりカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され、ワルシャワ国際映画祭でフリー•スピリット大賞を受賞した。また高校生の階級社会を見せた『桐島、部活やめるってよ』や『紙の月』などの作品で、日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀作品賞、東京国際映画祭観客賞など数々の賞も受賞している。今回バンクーバー国際映画祭出席のために来加した吉田監督に話を伺った。

ジャンルも主役も豊富

映画『美しい星』の初日、水曜の夜でレッドカーペットと重なっていたにもかかわらず多くの映画ファンが来場した。主演のリリー•フランキー扮するテレビの天気予報おじさんが登場すると、観客が喜んだ。ある日地球を温暖化から救わなければならないという使命に目覚めた彼は、全ての地球人に人類の危機を訴える。その方法も自前のパネルを昔風に用意したり、独特の決めポーズをとったりと面白い。監督によると、カナダの観客が素直に笑ってくれた後、真剣なシーンでは一切声が出なかったというコントラストが見れて楽しかったそうだ。

「人間は社会的に求められていることをする。普段はフィルターをつけている」と語りながら、「では皮をむいていくとどうなるか」、「2時間の映画の中ではできるだけ皮のむき出し状態で作りたい」と考える監督は哲学的でもある。

登場人物が多く、主人公が一人でないことについて尋ねると、「一人の活躍のためだけに存在する人物は実際にいない」というシンプルな答えが返って来た。この家族のように少しずつ、それぞれの人をフォーカスした描写を重ねていくうちに全体が繋がってバランスが見えてくる。またラストの何が真実かわからない描写について監督は、観客全員が理解できる真実や結論より、全部本当か嘘かと選択できる自由さを求めていると話す。これは吉田監督の持ち味ともいえる。

映画のメッセージはなし

映画の後半に父親(リリー•フランキー)と息子(亀梨和也)が言い争うシーンがある。父親と同世代なら共感できる場面だが、子どもや孫の世代に「ただ悪い」と思う気持ちは単なる「エゴ」かもしれないと監督は続ける。例えば親が水、空気、エネルギーなどを世界中を旅行したり、何も考えずに水、空気、エネルギーなどを好きなだけ使って環境に負債を残しておきながら、子供たち世代には謝って自粛や我慢をしてもらおうと考えること。「自分たちと同じ過ちを犯すな」と言うことで自分を免罪しようとするのを次の世代には見抜かれている、と監督は語る。

この映画のために吉田監督はかなりの時間を地球温暖化のリサーチに費やした。だが調べれば調べるほど、これが自然の気候変動範囲によるものか、人間の作ったCO2排出によるものなのか科学的にはっきりと結論を出せなかった。監督自身が考える過程で映画を作り出したので、この映画に明確なメッセージを盛り込んでいない。「センシティブに考える過程は大事」と監督はいう。

上映後、大きな拍手の後に観客からいろいろな質問を浴びせられた監督。お金ほしさに「水」の販売に走った妻(中嶋朋子)に関しては「みなさんも気をつけてください」と答えて笑いを誘った。

最後に、今回カナダで観客と一緒に鑑賞した『美しい星』には監督自身の特別な思い入れがあると説明してくれた。学生時代、三島由紀夫による同名のSF小説を読んで以来、ずっと映画にしたいと思っていて、おそらく監督がこれまでで一番作りたかった作品だ。もちろん監督が現代風の脚本に変えた。「順番は違うけど、この6作目はまるで新人監督が勢いだけで作ったような1本目的な作品」と監督は説明する。できればこの自己紹介的な映画の後に、他の作品を観てほしいと語った。

バンクーバー映画祭の後は釜山国際映画祭に招待されていてまだまだ多忙な監督。来年公開が予定されている『羊の木』は、カナダや世界中の現状に通じるような作品なので大いに期待したい。

VIFFレッド•カーペット特集

2週間にわたるVIFFイベントの中で最も目立つのが世界中の映画監督と俳優によるレッド•カーペット。過去にここから有名になったスターもいるので是非注目してほしい。

Zhang Aoyue (The Hidden Sword)

全てスタントなしの素早いアクションを披露した俳優でダンサー、Zhangさんは背が高くてカッコいい。会場に若い女性が多く、上映後にサイン入りポスターを配ったり、記念写真に応じてくれてファンは大喜びだった。

Lochlyn Munro (Riverdale)

もとはアイスホッケー選手を目指していたというさわやかなロックリン•マンロー。『21 ジャンプ•ストリート』や『スケアリー•ムービーズ』など200本以上の映画やドラマに出ているカナダのベテラン俳優。

Byron Mann (Blood and Water)

笑顔が優しい香港系のアメリカ人俳優。『ザ•ビッグ•ショート』や日本の対戦型格闘ゲームの映画『ストリートファイター』などに出演している。

RJ Fetherstonhaugh (21 Thunder)

カナダ人で、サッカーやホッケーなどスポーツ関係の映画によく出演している彼のクールさは目立つ。

Kaitlyn Bernard (Richard Say Goodbye)

3才の時から子役をしているカナダ人俳優。小柄な彼女は日本やアジアでも好かれそう。

Charles Melton  (Riverdale)

現在放送中のドラマ『リバーデール』にシーズン2から出演している、フレンドリーなアメリカ人俳優。

VIFF Special Presentation : OKJA

Director Bong Joon Ho (“Memories of Murder” “Mother” “The Host””Snowpiercer”) joined Skype interview from South Korea.

He explained how he made the movie “Okja”.

VIFF opening · Gala

~Many Canadian Stars ~

The Vancouver International Film Festival 2017 (VIFF) is a major event here in the city to appreciate the art of cinema. The opening gala was on the 28 of September and the event will last until 13 October, for about two weeks. There will be 300+ films, directors’ talks, actor’s red carpet walks, late night music and virtual reality experience.

Charismatic actors

Gorgeous Canadian actors arrived in limousines. It is particularly important for them to show up on the red carpet, as many awards are chosen from Canadian and BC movies.  Quite a few actors, who looked young and unexperienced a couple of years ago, now look confident and professional, greeting their fans generously, waving and smiling.

There will be many movies and documentaries on nature, human rights, environmental issues, food problems, animal protection, etc. from all over the world… Enjoy!

Luke Camilleri (A Series of Unfortunate Events) ©2017 maplepress.ca

VIFF オープニング•ガラ 2017

~今年も地元スターが勢ぞろい~

9月28日の夜、バンクーバー国際映画祭2017(VIFF)のオープニング•ガラが開催された。1982年にノンプロフィット団体として、シネマの芸術を理解し、BC州の映画産業を推進するために発足されたバンクーバーの大イベント。今年も10月13日までの2週間、カナダを始め世界各国から様々なジャンルの映画約300+本が一挙に上映される。また監督や俳優の舞台挨拶、トーク、深夜の音楽、バーチャルリアリティー体験などプログラムが豊富だ。日本からは「A Beautiful Star」(美しい星)の吉田大八監督が来加して各上映日の舞台挨拶を予定している。

カリスマ性のある俳優たち

最初にリモジンで華やかに到着したのはカナダの俳優たち。ベスト映画賞、新人監督賞、ベスト•ドキュメンタリー賞、短編映画賞や各スポンサー賞がカナダとBC映画を対象に選ばれるため、カナダ映画界にとってVIFF初日のレッド•カーペットでは特に重要となる。数年前まであどけなかった若手俳優たちもすっかりプロになり、ファンに大きく手を振りながらそれぞれの映画をアピールしていた。

BC州政府関係者、VIFF関係者に続いてレッド•カーペットに登場したのは地元バンクーバー在住のミナ•シュム監督による「Meditation Park」の主演俳優たち。主婦を演じるチェン•ペイペイとツィ•マは香港や海外で有名なベテラン俳優だ。バンクーバー•イースト地区が舞台となる地元の映画に会場は満席状態だった。

映画祭ならではの自然のドキュメンタリー、表現の自由が許されている国から発信される世界の人権問題、環境問題、食品問題、動物保護など、娯楽映画中心の大手映画館では観れない力作を体験できる。全ての上映映画が掲載されたカラーガイド入手とチケット購入はお早めに。

VIFF 2016

1982年からノンプロフィット団体として発足し、BC州の映画産業を推進してきた映画祭。国際映画のプログラム担当のアラン・フレーニー(Alan Franey)氏はアジア映画部門(Dragons & Tigers)の見所について、まずウェイン・ワン監督による俳優・北野武主演の映画『女が眠る時』と、是枝祐和監督の『海よりもまだ深く』を挙げた。また映画『昼も夜も』と『約束』の塩田明彦監督、『食卓』の小松孝監督と俳優、『仁光の受難』の庭月野議啓監督、『東北の新月』のリンダ・オオハマ監督など、日本映画のゲストがことしも登場するのでお楽しみにと語ってくれた。

VIFFは北アメリカの映画祭の中でも規模が大きく、ことしもBC、カナダ、世界から選ばれた300本以上の映画が9つの映画館で一挙に公開される。さらにベスト映画賞、新人監督賞、ベストドキュメンタリー賞、短編映画賞や各スポンサー主催の各賞がカナダとBC映画を対象に選ばれるため、カナダ映画界にとって貴重な映画祭となる。カナダ映画のプログラマー、テリー・マクエボイ(Terry McEvoy)氏は「笑ったり泣いたりできるカナダ映画をお届けします」と約束した。当日は『KONELĪNE: our land beautiful』のネティー・ワイルド(Nettie Wild)監督、『Mixed Match』のジェフ・チバ(Jeff Chiba)監督などカナダ映画の監督や俳優がそれぞれの映画をアピールしていた。表現の自由が許されているカナダならではの各界の不平等さを訴える映画やカナダらしい美しい自然の映画など、通常ニュースでは見られない映像体験ができるのでおススメだ。

全ての上映映画が掲載された無料のVIFFカラー版ガイドはバンクーバー市内の各映画館で入手、もしくはオンライン(www.viff.org)で読める。昨年14万枚売れたといわれる映画のチケットは1枚15ドル。人気映画のチケット購入はお早めに。

Executive Director Ms. Jacqueline Dupuis ©2016 maplepress.ca
Canadian Actors ©2016 maplepress.ca
Director Jeff Chiba ©2016 maplepress.ca
Mr. Kamran Ahmed, Director Nettie Wild、Mr. Terry McEvoy ©2016 maplepress.ca

Interviews for Japanese media:

Director Akihiko Shiota  

塩田明彦監督

Director Akihiko Shiota ©2016 maplepress.ca

海、車、そしてビッグなラブストーリー

映画監督、脚本家、映画批評家など多方面で活躍している塩田明彦監督。今年は手がけた新作映画3本がバンクーバー、釜山、ロカルノなどの国際映画祭から招待された。バンクーバー国際映画祭のプログラマーで映画評論家のトニー•レインズ氏によると「原点回帰の年」と言うぐらいどれも監督の初期に戻ったような作風に仕上がっている。中でも日活から飛び出した新作『風に濡れた女』は今年のロカルノ国際映画祭で見事インターナショナル部門•若手審査員賞を受賞したばかり。内容はソフトポルノだが独特な描写で現地の女性にも十分に受け入れられた。しかしレインズ氏によるとその作品は放っておいても売れるもの。むしろ塩田監督の全く違う一面を魅せる『昼も夜も』と『約束』をあえてバンクーバーに選んだそうだ。どちらも配給会社のないインターネット用の作品で、監督自らの自費で英語字幕をつけた作品。『昼も夜も』はハートブレイクホテル的な男女の愛が描かれている。監督によるとそれは全くの偶然だったそうだ。始めは中古車にある車の中に一人の女性が居着いてしまって若いオーナーとトラブルが起こるというコメディーを描くつもりだった。しかし居場所を転々と漂流している女性の理由を考えた時にあの東北震災のイメージが頭をよぎったそうだ。時間は経っても、まだ住む場所が定まらず転々とさまよっている人たちが現実にいる。映画の女性もそうだった。そして同じように辛い過去を背負い車一筋に生きている主人公の男性。一見重いテーマを感じるが、塩田監督の映画は決して重くない。むしろ80年代の海に似合うような軽快なサウンドと映像が一致していて、とても爽やかだ。震災を組み込んでいてもあくまでもラブストーリーが中心と監督は語る。監督自身もラブストーリーが好きだと自覚しているそうだ。

バンクーバーは今回で2回目。初めて来た時は監督•脚本を務めた映画『どろろ』で、アクション監督のチン•シウトン(トニー•チン)と打ち合わせをするためだった。10年ぶりの今回は監督として訪れた。読者のために「次も必ず一癖ある映画を持ってきますのでまた観に来てくださいね」と優しく笑った。次作にも大いに期待できる。

Director  Takashi Komatsu

小松孝監督

DIrector Takeshi Komatsu ©2016 maplepress.ca

映画と同じく個性的で明るい監督とスタッフ

海外が初めてという小松孝監督。映画製作を10年ほど休んで復帰した作品が見事バンクーバー国際映画祭の招待を受けた。本来家族一緒にご飯を食べる『食卓』だが、今は食べるものや見たいテレビ番組が違って会話もない。我慢の切れた義母は怒りをフライパン•アートで消化させる。そして食卓がだんだんアート置き場になっていくという最後まで笑える映画だ。説明やセリフが少なくただ画面を見ているとわかるので、言葉がわからないカナダ人も大いに喜んだ。これは「見ている側が積極的に映画に参加してほしい」という小松監督の処方によるものだった。「僕もフリーなので仕事をしていない時はこの映画のような実家にいるニート(注:就学、就労、職業訓練を行っていない無業な人)です。父はアル中で、もし母がいなくなったらどうなるだろうと考えてストーリーに反映させました。それにこの家は僕の本当の家なんです」とさらに笑わせてくれた。国内の映画祭でグランプリを受賞した後バンクーバー国際映画祭に招待された。何か生活が変わったかという会場からの質問に「呑むお酒のグレードが上がった」と笑わせた。

Actor Naoya Watanabe

俳優の渡辺直也さん

詩人のニート役を演じる俳優の渡辺直也さんは小松監督の大学時代からの後輩で映画仲間。監督の映画の半分以上に出演していて、監督のいう「使い放題」的な存在。映画と正反対でさわかやな笑顔を持つ男優だ。今回プロの俳優は彼一人だったので「押し付けがましくなく、やりすぎないように、極力抑えてラフに」を心がけて役に挑んだそうだ。「ただあの汚い環境にいると、だんだん顔がこんな風になってリアクトするだけでした。スタッフの中で気分が悪くなって帰った人もいたんです」と笑わせると「普段僕そこに住んでいるんですけど」と小松監督が横から話した。衣装やセッティングを担当したスタッフの上原つかささんも監督の指示通りに私物を集めてセットしたが、ペットボトルやビールの空き缶は「全て僕が自分で飲んだもの」と監督が認める。現地プレスのインタビューのスケジュールがびっしり詰まってバンクーバー観光ができなかった監督とスタッフ。初めての海外進出は大成功だった。

Director Hayato Nobe

野辺ハヤト監督

人生について静かに感じられる短編映画

『Affordance』とは環境が動物に対して与える『意味』のことで、アメリカのジェームス•ギブソンという知覚心理学者による造語だと説明してくれた野辺ハヤト監督。今回のショート•アニメーションの中でも静かでひときわ目立った作品だ。2年半もかかった2作目のショートでいきなりバンクーバー国際映画祭に招待された。人生の中で生まれ変わって同じ生き物がどう変化していくかという様子をらせん状で上がっていく形で描いたアニメで、それが負の方向かプラスの方向に行くのか、それはその人次第で、物とか環境が人に与える影響もうながしている。人間は普段から無意識な判断で体をすぼめたりくぐったりすることがあると監督は続ける。自分の人生の中で無意識に判断してしまうことが何に繋がるか、またそれを把握していかないとプラスの飛躍に転じられないことがあると丁寧に説明してくれながら、「あ、何か難しいこといってごめんなさい」と優しく照れながら笑った。静かなアニメも歌声も監督自身のオリジナル。次作について今は考えられないがこれからも確実にやり続けていきたいという確かな自信をのぞかせていた。

Director Norihiro Niwatsukino

庭月野 議啓(にわつきののりひろ)監督

独自の新しい世界観に挑戦する監督

漫画家、ビデオゲームのクリエイター、小説家などいろいろな仕事にチャレンジしたけど、どれにもなれなかったと苦笑する庭月野議啓監督。しかし小さい頃から一貫して物語を作りたいと思ってきた。大学でふとプロモーションの映像製作をしたら周りに褒められて感動したのが映画へのきっかけだった。そして実写•アニメを組み込んだ映画『仁光の受難』はバンクーバー国際映画祭の初日からいきなり完売となり異例の3回上映となった。監督は史実「延命院事件」や伝承「二恨坊の火」から着想を得て、海外でなじみの薄い『妖怪』『浮世絵』『百物語』などを盛り込み、カナダ人の興味を大いに誘った。この作品は自分自身で監督、プロデュース、編集、アニメなどを担当して4年という年月をかけたそうだ。映画の資金はパブリックからのクラウドファンディング(製作費の1/10)と自費で、インディー(自主製作)ならではの過激に納得のいく映画作りを目指した。だが撮影準備にはかなりの苦労をしたそうだ。まず内容に女性の裸があると日本では即AV(アダルトビデオ)のイメージになる。多くの女優は脱ぐ必要性がわからない理由で出演を断わった。またそういうシーンがあると成人向けになり上映できる映画館も減った。またお寺や国の自治体が管理している建物の撮影許可も断られて大変だった。

撮影は全部で約20日未満。主演の俳優•辻岡正人さんをスキンヘッドにさせる期間にも限りがあった。短期の撮影で撮りきれない部分はむしろアニメの方が良い場合もあったので、撮影後の編集にかなり時間をかけた。自主制作映画だから出来る表現で、これまでにないような納得できる映画が作れたと監督は語る。次の作品について聞くと、しばらく考えてこの第1作目を超えられる仕事ができるか、第2作目をどうするかで今後の映画監督の人生が変わってくるような気がすると真面目に答えてくれた。この後予定されている釜山国際映画祭のレッドカーペットには九州に住んでいる家族を呼んでいる。これからも楽しみな新鋭監督だ。

第34回バンクーバー国際映画祭

〜今年も華やかに開幕〜

VIFF 2015のプレスコンフェレンスが9月8日、バンクーバー・インターナショナル・フィルムセンター(1181 Seymour Street)で行われた。1982年にノンプロフィット団体として、シネマの芸術を理解し、またブリティッシュコロンビア州の映画産業を推進するために発足されたバンクーバーの大イベント。VIFFのスローガンは“Same Planet. Different Worlds.”だ。今年もカナダをはじめ世界70カ国から355本の映画が、9月24日から10月9日まで上映される。

この日は地元バンクーバーの有名監督や俳優たちが一足先にレッドカーペットに登場した。VIFFディレクターのジャクリーン・ダピュイス氏らが、ガラのオープニングの『Brooklyn』、クロージングの『I Saw the Light』、そしてバンクーバーのインド系カナダ人を描いた『Beeba Boys』などを紹介した。プログラム・ディレクターのアラン・フレーニー氏は邦画の見どころとして、石井隆監督の『Gonin Saga (GONIN サーガ) 』を挙げ、監督、プロデューサーなど数人の参加予定なので大イベントになりそうだと語った。これは95年に大ヒットした『Gonin (GONIN) 』というヤクザ映画の続編なので、できれば前編を先に観てほしいとのこと。話題の是枝裕和監督の新作『Our Little Sister(海街diary)』はとても日本的でデリケート、女性が共感できる作品だそうだ。フレーニー氏の個人的なオススメは、想田和弘監督の『Oyster Factory (牡蠣工場) 』という、かき工場の美しいドキュメンタリーだ。

映画評論家のトニー・レインズ氏が「太鼓判を押した」とフレーニー氏が語るのは、去年大好評だった『祭の馬』から2年連続招待となる松林要樹監督の『Reflection』。映画祭の最中にカメラを持ち歩いていた松林監督らしく「バンクーバーのシーンも入っている」そうだ。その他『The Name of the Whale(いさなとり) 』の藤川史人監督も今回初来加して舞台挨拶をしてくれる予定。また、バンクーバー新報がメディアスポンサーをする映画『渚のシンドバッド』『ゼンタイ』でおなじみの橋口亮輔監督は、『Three Stories of Love (恋人たち) 』という恋人たちの物語を披露する。

映画祭会場は、去年と同じくThe Centre for the Performing Arts、The Cinematheque、Cineplex Odeon International Village (8-10)、Rio Theatre、 SFU’s Goldcorp Centre for the Arts、Vancity Theatre、Vancouver Playhouse、合計7つの映画館で開催される。バンクーバー滞在中の方も、このチャンスを逃さずに映画祭を体験してほしい。

Interviews:

『GONIN サーガ』の石井 隆 監督

~世代を超えて蘇ったストーリー~

「ヤクザのオペラともいえる傑作を楽しんで下さい」と映画評論家のトニー・レインズ氏から紹介された『GONIN サーガ』。石井隆監督は77年『天使のはらわた 赤い眩暈』のデビュー以来、『死んでもいい』『ヌードの夜』『GONIN』などでトリノ、ロッテルダム、モントリオールなど数々の国際映画祭から招待を受け、最優秀監督賞や審査委員特別賞などを受賞している。終戦2年後に生まれた監督は「一人一人の命を大切にしよう」という教育で育った昭和男。だが阪神大震災、地下鉄サリン事件から、命そのものに対し鈍感になった時代を感じ始め、「無駄に死んでいく姿」を自分ならどうスクリーンの上で描けるかを、より考えるようになった。

前作『GONIN』の続編は世界から期待されていたにもかかわらず、19年という月日が経った。監督は当初、佐藤浩市さんなどオリジナルの主演メンバーで香港へ行き、向こうのマフィアと戦うようなシナリオを用意していた。しかし時代の流れが変わり、企画が通らないまま5年、10年、15年と経過。「世間知らずなものですから」と自称する監督は「いつか企画が通る」と信じてシナリオだけは何本も抱えていた。最終的に角川映画からの打診で国内版で若手俳優起用となった。当初「いつでも出るから」と約束してくれていた根津甚八さんは健康状態が変わっても、また前回主演の佐藤浩市さんも友情出演として参加してくれた。

監督によると前作の永島敏行さんや鶴見辰吾さん扮するヤクザたちは、トップでなく下のランクだった。管理職でないサラリーマンと同じように、失敗をすると首になる。共働きで父を「お父ちゃん」と呼ぶような家族の雰囲気や、前回と同様、強盗とヤクザのどちら側にも時代の犠牲者がいるということを描きたかったという。上映中、竹中直人さん演じるヒットマンが、死なない怖さで笑いを誘った。監督は真面目なシーンで笑いが起こったことで「どこかに消えたくなった」とコメントして観客を一層笑わせた。

海外で人気のヤクザ映画やロマンポルノ映画について

世界の邦画ファンにとって『仁義なき戦い』など70、80年代流行したバイオレンス・アクション映画がなくなってきているのは非常に残念なことだ。最近はテレビ局が資本を出し、上映後のテレビ放送を念頭においているため、「子供に悪影響」などの理由で安心安全な企画しか通らない。またヤクザに取材しないと書けないシナリオのリサーチにおいても、利益を供給するという行為が法律で禁止されてからは不可能になっている。今回の脚本は監督自身が東映のヤクザ映画を観て育っているし、本でリサーチもした経験から書けた。しかし真の世界はもっと残忍なはずだと語った。

監督はエロティックな表現についても、今の若い世代の監督の傾向を挙げた。関わることで色眼鏡で見られ、メジャーなオファーが来なくなるリスクを避ける、あるいはエロスやタナトスへの興味が失われているということだ。また女優だけでなく男優も、表現の幅を広げるためにトライしようと思っても、事務所サイドはコマーシャルの仕事が来なくなるという理由でそれを赦さない傾向にある。過去における日活ロマンポルノのスチール写真が肖像権などで使えなかったり、子供ができて、地域社会で迷惑を被るなどの理由で使用の承認を取り下げる女優もいる。しかし一番の理由は上映する映画館がなくなったことかもしれないと監督は続ける。最近は多くがシネコン(1施設内に複数のスクリーンがある映画館)になり、18歳未満を規制する映画が入りにくい、また入ると近所から反対の声も上がるそうだ。

英語で挨拶し、大物監督としては珍しく、2回連続の映画上映を、最初から最後まで客席から鑑賞していた石井監督。当初4時間だった映画が2時間に短縮されたことからテンポが速すぎなかったか、字幕についていけたかとカナダの観客の反応を心配した。「どうも性格が悲観的なので…ごめんなさい」という監督に会場は暖かい拍手を送った。2回観ると、もっと監督の世界観に触れられるような作品。監督にまだまだ続けてほしいという観客の願いが十分に感じ取れるプレミア上映だった。

Director Masaharu Take

『100円の恋 (100yen Love)』の武 正晴 監督

~助監督から監督になった経験豊富な「技術屋」監督~

映画『100円の恋』を観た人はこの映画が新人監督による作品らしくないと気がつく。それもそのはず、武監督はスタッフ、特に助監督歴がかなり長い方だ。「監督になって真面目になりました」と監督は照れる。初めは石井隆監督のような持続力や、森崎東監督や井筒和幸監督の底力を見て圧倒されたそうだ。それぞれ個性ある才能の塊のような監督たちが映画に向き合っている姿勢を見ていて、自分にできるかなと思った。しかし同時に監督たちが撮影している背中から、彼らの発するエネルギーを体感した。どんなに追い詰められても絶対に負けないで向かっていくという感じだ。助監督中はただ忙しいと思っていたが、監督になって責任も大きくなり、もっと勉強しなければと思い、映画も進んで観るようになった。サボっていたわけではないが、やる気も出た。そしてあの時の監督の思いがわかるという新たな発見もあった。

去年作った映画『イン・ザ・ヒーロー』の中で、武監督は主演の唐沢寿明さんがトレーニングをしていく過程を見学したという。難しい課題を与えた時に俳優が無我夢中になっていく。できるだけ一緒にいて、その練習風景を見るのが演出につながるし、この普段の稽古がリハーサルでもあるそうだ。映画を観ると、話より出ている俳優の頑張った姿に感動できると監督は続ける。安藤サクラさんのようにシナリオを読んで女優が本気になると、ガソリンと火の関係になるそうだ。お芝居は俳優に任せるが、出てきたものをどこまで燃焼させたら良いか、どういう形で観客に届けるかなど「技術屋」としてそれを考えるのが一番楽しいという。また「上映会にたどり着くまでは辛い事の方が多い」ので上映会はいつも楽しみだそうだ。昨年の東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門作品賞を受賞し、韓国・プチョンでは多くの大物監督を抑えてNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。ニューヨーク、フランクフルトを経て、まだ世界から招待が続く。今後も話題作品を作ってくれそうな監督である。

Director Yoju Matsubayashi

松林要樹監督

〜『Reflection』に映る真の光景〜

初めての上映はバンクーバーで

松林要樹監督といえば『花と兵隊』、『相馬看花 奪われた土地の記憶』そして去年バンクーバーだけでなく、ヨーロッパ諸国など世界各地の映画祭で招待を受け、ドバイ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『祭の馬』で知られている。ドキュメンタリー映画を本のような記録に残したいと思いながらカメラを回す監督は、自分の心に残ったり、魅了されたり、考え込んだりした時、つい後ろからカメラを取り出して撮影していることから「バックパッカーの監督」と呼ばれることもある。

笑顔がさわやかな監督

今回の映画『Reflection』は、バンクーバーが大好きな監督らしく、一人で作った世界プレミア作品。前3作とは全く違うスタイルで、抽象的な要素を取り入れた。ガラス、鏡、水などから反射した17カ国の景色を一つのカメラの視点から眺めるような作品。撮影中「変な人だ」と思われたぐらい、24時間同じ場所にいたこともある。サントラや外部の音楽効果に一切頼らず、実際の物音だけで作っているドキュメンタリー。現代のスマートフォン世代など、観客を引き込む映像もあった。反射するものを探しながら、都市では建物を使った反射を撮影できるが、田舎では水からしか撮影できないという発見もした。

映画祭や撮影で世界を訪ねると、監督は自分が知らなかったり、マスコミで報道されているものと違う光景を見るそうだ。中でも印象に残るのはカナダでは見られない沖縄と香港のデモンストレーションで、どちらの国か区別がつかないぐらい映像が混じる。ある警察官のふとした表情から彼本来の人間性やジレンマすら感じさせたり、空腹で歩きまわったあげく泥水を飲むインドの白馬など松林監督独特の皮肉で優しい描写も欠かせない。「世界は今同一化している。特に最近同じようなことが起きていると感じることが多い。その事を合わせながら伝えたかった」と監督はいう。

上映後のQ&Aでは「映画の技法がとても素晴らしかった、ありがとう」「去年ここで『祭の馬』を観た者です」「デビュー作も観ました」など、ファンであると述べたり感謝してから質問に入る観客が多かった。監督は「英語がとても苦手だ」と話しながら、ほとんど通訳なしで観客に応えていた。『祭の馬』のプレッシャーから解かれたような笑顔で、「これから一旦日本に戻ってすぐ次の撮影のためにブラジルへ移動するんです」と話す松林監督。ブラジルが舞台となる次作もバンクーバーで上映されることを期待したい。

Director Shito Fujikawa

『いさなとり (The Name of the Whale)』の藤川史人監督

~広島へ行きたくなるような美しい作品~

大学時代から短編を制作し、自主映画の長編はこれが2作目という藤川監督は、今回初めての国際映画祭入りを果たした。『いさなとり』の制作にあたって個人的な時間も意識したという。映画の舞台となった広島県三次市出身で、自分の中学生時代を思い出しながら作った作品だ。主人公・ユウタの家は自分が実際に育った思い出の家でもある。主演の子役は全員演技経験のない地元の子供たちだったので、1週間ほど一緒に時間をすごしてから1カ月の撮影に入ったそうだ。

広島出身の監督らしく広島を紹介したい思いが伝わるような半分ドキュメンタリー、半分フィクションという感じの描写が光る。監督はジャンルの境界線を引かずに、ストーリーが弱くなるかもしれないという覚悟で作った。しかし映画はお祭りなど、カナダの観客が楽しめる光景が入って自然に仕上がっている。特にくじらの風船は見逃せないシーンで、東京から人を呼んで2日がかりで撮影したそうだ。気になるくじらの化石だが「見つかったらいいな、でも見つからないだろう」と笑った。

本作では新たな課題や発見があった。観客から確かな手応えもあり次に進めるとも思った。『いさなとり』はすでにぴあ映画祭で観客賞をとり、日本映画ペンクラブ賞も受賞している。バンクーバーの後、新たな感触を得た監督の次の作品に大きく期待したい。

女優 イ•ジョンヒョンさん

〜華があり幸運を呼んでくれそうな女優〜
映画 Alice in Earnestland 誠実な国のアリス
K-POP人気歌手で元「テクノの女王」と呼ばれた女優のイ•ジョンヒョンさん。日本ではCDデビュー直後にNHK紅白歌合戦に出場し、レディー•ガガのコンサートの前座にも選ばれている。日本や中国以外でも外国人受けが良く、出演した短編映画はベルリンの金熊賞を受賞し、この映画『誠実な国のアリス』もすでに賞を受賞している。監督たちが「ラッキーガール」と噂するのも納得できる。
そんなすごい彼女なのに今回何の前触れもなく、いきなりバンクーバー国際映画祭の深夜上映に現れた。ファンが大パニックする中「バンクーバーに来れてうれしい」とスマイル。夜到着して朝帰国という多忙な彼女は、長蛇の列にもかかわらずファンやボランティア全員と記念撮影をすると宣言し、見事に最後の一人まで達成。しかも失敗したかまだ足らないという感じで追いかけてくるファンにも優しく接していた。予想外の徹底したファンサービスで、感激のあまり泣き出すファンが続出した。
この映画で彼女は「ごめんなさい」と可愛く謝りながら人を殺していく。警察の前で泣いた後また殺す姿は、まるで昔の『聖ロザリンド』(古い)みたいだった。評論家のトニー•レインズ氏は「面白くてショッキング、しかも残酷すぎる。もう息ができない」と転げ回るくらい笑ったそうだ。本当にすごく面白いのでオススメだ。

Director Yohei Suzuki

 鈴木洋平 監督

〜観客も止まらせた映画「丸」
不思議な監督のデビュー作
インディー(自主)映画は何が飛び出すかわからない。今回鈴木洋平監督のデビュー作「丸」も前半はストーリーに引き込まれ、場内に笑い声が聞こえた。しかし。。。最後はびっくり、何がなんだかわからない。「え?」 観客が一瞬止まった。止まりながら、周りの人と目を合わせてあわてて拍手をする。そしてQ&A。質問したくても何を聞いていいかわからない。そのうち時間がきて鈴木監督が帰ろうとする。「ちょっと待ってくれ。こんなはずではない」というような観客が監督の後を追う。あっという間に監督は丸くとり囲まれた。一体何が起こったのだろう?
「止まったでしょ?」 鈴木監督がにやりと笑う。自主映画の監督というよりミュージシャン風な監督。横からプロデューサーの今村左悶さんが「監督もよく止まるんですよ。道に何か落ちていたら『あ?』とか言ってしばらく止まったままです」と笑わせてくれる。そしてカナダの観客がびっくりして「オー」と言う声を出した時、監督は「やったー、と思いました。日本では『オー』ではないので」と多少興奮気味だった。
常に「考える人」
鈴木監督は常にいろいろと考えている。主人公も「考える呪い」みたいなものにかかってずっと考えているそうだ。何が言いたいかわからないけど言いたい事がある。言った本人が何かを言った気になれば、また言われた相手が何かを言われた気になればそれで良いじゃないかという。そして言葉、特にだじゃれも好きだ。
また監督は物事の流れにもすごく敏感である。インタビューに対応している瞬間も、「あれ、俺今バンクーバーにいる。なぜ?どんな流れでここまで来たんだ?」などとふと考える。でも理由がわからない。何か理由があるはずなのに今わからない。「そんな偶然が世の中にはいっぱいあるのになかなか物語にできない、これは非常に難しい」と語る。また凄く盛り上がったジョークも映画にしようとするとおもしろくなかったりする。これをどうしたら良いのか。考える事がたくさんありすぎる。
「そもそも自分はおよびでない存在なので」とまだ「マイナー的な新人監督」という意識を持っている。「およびでないのに御託ならべて、はいさようなら」という植木等さんのジョークを言った後、「およびでない」自分を自覚しているからこそ逆に何でもできる。またそれを楽しんでくれる人がいたらラッキーという気持ちで映画を作っているそうだ。
今回の「丸」は撮影が6日間で、トータル約1ヶ月半という超スピードで完成したにもかかわらず、「傑作」なデビュー作として注目を集めた。監督は他にも20本ぐらいの企画をあたためているそうだ。しかもシナリオの段階に入っているのが3、4本ある。 次作は笑えて怖い、また歴史的な裏打ちもある『ゾンビ』で、考えただけでも楽しくなる。 企画の話になるとまた止まって考え出す監督。その姿はやはりインディー監督そのものだった。

松林要樹監督

~「祭の馬」を語る~

後世にこの馬たちの話を伝えたい

馬との出会い

「花と兵隊」、「相馬看花 奪われた土地の記憶」やバックパックで知られる松林監督は始め人を撮るために被災地へやってきた。立ち入り禁止区域内で偶然撮った馬が数日後餓死したと知りかなりショックだった。なぜあの時餌を与えなかったのかと自分を責めた。そして南相馬で3ヶ月間、馬の世話のボランティアをすることにした。

初めてミラークエストの腫れた男性器を見た時、「いたっ」と思ったそうだ。男だからわかる視覚で、決して馬のことではすまされなかったという。そして自分の中で原発のキノコ雲の形とミラークエストの性器の形が比喩的なイメージとしてつながった。避難生活を送るうち一時小さくなり回復かと思われたミラークエストの性器も、その後いきなり去勢されてしまう。それも日本の切り捨て社会を象徴しているように感じた。ならこのミラークエストを絵本やおとぎ話のように後世に残したいと思ったそうだ。

飼育の世話をしていて初めて「砂浴び」をする馬を見た。その時馬は全身で感情を表現するいきものだと気づいた。よく観察すると雷がなった時の耳の様子などいろいろな感情表現をする。そんな馬にどんどん魅せられていったという。

大震災が変えた馬と人間との関係

東北大震災は馬と人間の関係を変えた、と監督は話す。通常馬は競走馬か祭りに使ってあとは食用馬肉という、人間にとって利益を得るための手段だった。しかし被災して戻った飼い主は生き延びた馬達を見て餌をあげ続けた。国から処分命令が出ても殺さず、お金のかかるペットにしてしまった。自分の儲けが全てなくなったのに一ヶ月4万円も馬に使う。その上自分になついていた馬の昔話をして「おれも年をとった」などと言う。震災がもたらした人間の心の変化も夢中でカメラに収めた。

一時ミラークエストが吊られているような光景があった。監督は「ちくしょー」という馬の気持ちを表現したという。しかしミラークエストはまだ生きている。震災で食用肉になれず、また飼い主に処分もされず、今年も祭りに出る。監督の表情が少し明るくなった。

松林監督にドキュメンタリー映画の制作について尋ねると、撮ろうと思っている物があるならあきらめないでほしいと答えてくれた。うまくできなくてもまず作り上げてほしい。監督自身も見直すとまた編集したくなるし、時間が経つとあの時こうしておけば良かったと思ったりもする。「だから自分でもう一回見るのがいやだ」と笑った。そして「制作費の問題はある」、「一喜一憂はできない」「でも腹を決めたらやりつづけること」と言ってしばらく間をおいた。「僕、これの第一部で震災で取り残された人を追ったんです。。。だから続けていけると言う事は運がいいということなのです」ときっぱり答えてくれた。

バンクーバー国際映画祭「祭りの馬」の初日、月曜日の朝は雨が降っていた。しかし上映前に2列の長い列ができ、その半数以上がカナダ人だった。「乗馬をしていて馬が好きだから」という女性もいた。 上映後のQ&Aでも英語の質問が多かった。監督は自称「シャイ」でサングラスをかけているが、言葉を選んでとても丁寧に答えていた。 観客から「犬は好きだが、今までこんなに馬のことを考えた事がなかった」「奥さんを連れてもう一度来たい」などの声が上がった。祭りの馬は日本だけでなくカナダの人々にも感動を与えた。

監督の次作はブラジルのサンパウロが舞台。福島を故郷とする日系ブラジル人一世のおばあさんが、58年ぶりに帰国を考えている作品。今現地で撮影中。早ければ来年にも完成するので大いに期待したい。

バンクーバーは世界で一番住みやすそうで、また戻って来たいと笑顔で話してくれた監督。足元にはもちろんバックパックと三脚があった。

クラウス•ドレクセル監督

〜映画が贈り物になった〜
パリで見かけるホームレスたち。多くの人はただすれ違うだけです。しかしドイツから来たドレクセル監督は彼らの話を聞きたいと思ったそうです。ただインタビューをするのではなく、友達になって自分の世界観や生活などを話してほしかった。そして一年間、キャノンC-300を持って毎晩彼らと時間を過ごし、会話していくうちにこの映画が生まれました。冬の間ホームレスたちは自分にも気遣ってくれたそうです。
この映画はできれば一人で見てほしいです。何人かのホームレスが毎晩目の前に座っているようなアングルで話をしてくれます。自分の生い立ち、今の苦しい状況、哲学など、そして笑顔も向けてくれる。戦争以外でこれほど精神的に苦しい撮影はないのではと思ってしまいます。監督の描く夜のパリの美しさがあまりにもホームレスの悲しさと対照的です。住む家がない、尊厳の権利を奪われる。。。それなのにホームレスたちは監督に心を開いて撮影させた。この監督もすごいと思います。
バンクーバー映画祭に招待されたドイツ•バイエルン州出身のドレクセル監督は、忙しい中インタビューに応じてくれました。最初パリに住んでいながらホームレスの人々が気になった、彼らが何を考えているのか、どういう世界観を持っているのか知りたいと思ったと言います。しかしインタビューなどしても意味がない、心を開いてもらうには毎日顔を合わせて行こうと考えました。そして1年間、監督自身が毎晩路上に顔を出し、彼らと話をするようになりました。そのうち同情でなく彼らの純粋な心に打たれました。彼らの声をきちんと伝えなければいけない、自分は彼らの視点から映画を作る、そんな使命感も生まれました。
最後に「こんなドキュメンタリーを作っても何も変わらないかもしれない、でも伝えたかったし伝えなければならない」「予定はないけど、できたら日本でも公開してほしい」と言ってくれました。そして「一番つらかったのは寒い夜の撮影でなく、撮影が終って彼らを残して自分の家に帰った時だ」と言ってしばらく間をおき、「この映画が自分の人生観も変えた」と締めくくってくれました。2013年のカンヌ映画祭を始め、ドイツ、ベルギー、カナダなど多くの国際映画祭から招待を受け、フランス国内のドキュメンタリー部門でグランプリ賞など数々の賞も受賞している作品。これは人生のために必見な映画だと思います。

Director Claus Drexel ©2013 Sylvain LESER / Haytham Pictures



池田暁 監督
Director Akira Ikeda ©2013 maplepress.ca

Striving for Nature’s Experience

Thomas Riedelsheimer

Have you ever felt Zen when you leave the theatre?  Have you ever seen a movie with visuals like moving photographs?  People who have seen “Rivers and Tides” probably can recall this experience and say, “Yes, I have.”  This year, Vancouver International Film Festival presents the same director’s new movie called “Breathing Earth: Susumu Shingu working with the Wind.”  The director, Mr. Thomas Riedelsheimer, once a film professor of Emily Carr University, gave an exclusive interview for you!

The Inspirations in Understanding Nature: Goldsworthy and Shingu

To make a documentary, Mr. Riedelsheimer needs to be touched by the person who has some connection to nature.  Even though he is known for his movies like “Touch the Sound” and “Soul Birds,” his first connection to nature started during “Rivers and Tides (2001),” a documentary about Mr. Andy Goldsworthy.  Mr. Goldsworthy is a world-famous English land artist, known for producing site-specific sculptures in natural settings.  “Andy was my first encounter to art and nature,”  Mr. Riedelsheimer recalls.  

In this new movie “Breathing Earth,” Mr. Riedelsheimer follows a Japanese artist/architect, Mr. Susumu Shingu.  Mr. Shingu is around 70 years old and dreams to one day construct a city with energy created solely by wind and water.  Mr. Riedelsheimer not only agrees with the way Mr. Shingu sees the world, but is also very much attracted to the way he and his wife work together.  “I am fed and nourished by my contact to nature.  I would like to watch people and see what kind of relationship they have with nature.”  He adds, “Susumu transfers what he learns through his work (with the wind) to his life, including his relationship with Yasuko (his wife).”  To him, Mr. Shingu is a person whose life breathes the philosophy learned from nature.

Recently Mr. Riedelsheimer came back from San Francisco.  He is now working with Mr. Goldsworthy again for an upcoming movie.  Is this a sequel to “Rivers and Tides”?  It could be, but they have different intentions.  In the first movie Mr. Goldsworthy was alone trying to understand the nature.  Now, after a decade, he wants to work with the nature of all living things in man-made environments. The film explores how the life of Mr. Goldsworthy has changed, yet continues to produce such exceptional work.  This is a 90-minute documentary called “The Human Touch” which will hit the box office in 2015.

“Be Invited” to Touch the Origin of Nature

Mr. Riedelsheimer reads Haiku, and compares the way he captures the moments to this particular style of writing.  Haiku poems are typically made out of basic words in three short lines aiming to capture an essence of a big moment.  “It’s like Basho’s frog and water” he smiles.  “It’s a kind of poetic approach to see normal things around us.  You just stand there, watch closely, and become aware of it.  Then it opens up a window, a window into the bigger world of nature.”

Everyone is welcome to visit Mr. Riedelsheimer’s short film collection website “Be Invited” (http://www.be-invited.de) and experience how he sees the world.  He uploads one film every week, with a total of 40 films at just a click away for your entertainment.  Why?  It is because he finds them extremely precious.  He just wants us to be more aware of the great “little things” around us, like the pattern of lights, the raindrops falling, or the leaves in the wind… Here we can even discover some of Vancouver’s little things that we all know but take for granted, and be amazed at how such ordinary things can be transformed into art.  “Be Invited” is the place where Mr. Riedelsheimer can connect with you.  He simply wants to share and hear from you.

His Message

In today’s world we are forced to make decisions and take actions.  We all want a little power to control others and feel superior.  “But in nature,” Mr. Riedelsheimer contues, “things are happening without us.  We cannot control wind, rain, or water… To me, nature is humbling our self-importance or ego.  It teaches us how small we are, and makes us realize that we can only watch and be aware of it.”

Regarding today’s environmental problems, Mr. Riedelsheimer understands that it is very hard for people to change their behavior or their way of thinking.  Most of the time we know what is right and wrong in our heads, but we cannot act accordingly.  He believes that the best way to reach people’s hearts is through the experience that film can give us.  This is what he would like to accomplish.  “I cannot make sculptures but I can roll and edit film the way that is almost a first hand experience.  You just sit there and watch, be there, connect, and I would like to share my 90-minutes of magic, that is…nature.”

Are you ready for this magic? Be there on: Fri. 9/27 14:30, Tue 10/8 19:15 (both at Vancity Theatre), Fri. 10/11 16:30 (SFU’s Goldcorp Centre for the Arts)

Critic: Tony Rayns トニー・レインズ
英国の作家、コメンテーター、映画祭プログラマー、映画脚本家、映画評論家

短編映画『Jury(審査員)』について
トニー・レインズさんの出演した『Jury』について質問すると、「君は見たのか?」と笑顔で聞いた後「いやー、僕は俳優じゃないからね。見ただろう?ほんとに僕は役者じゃないんだ」とひたすら照れるトニーさん。しかし、話が彼の30年以上の友人でもある、韓国釜山国際映画祭の元執行委員長キム・ドンホ監督の話となると、目を輝かす。トニーさんはキム監督が釜山国際映画祭を立ち上げる時のチームの一員であり、毎年開催される映画祭のアドバイザーでもあった。3年前に退職してソウル近郊の壇国大学に移ったキム監督を訪問した際に突然この映画出演の話が持ち上がった。「びっくりしたよ。72才の新人監督なんて。フェスティバルの歴史の中でも聞いたことがなかった」そして韓国映画界のトップが出演しスタッフとなり、日本の富山加津江さんと一緒にトニーさんも審査員役で参加した。上映前にトニーさんは映画の中と同じ服装で他の映画の紹介をした。映画が始まると画面に写る彼の姿を見て観客は笑った。いかにもトニーさんらしい演出だった。
Dragons&Tigers 賞について
映画評論家トニー・レインズにドラゴン&タイガー賞について尋ねると、「アートにルールはない、でも心に響くものが必要だ」と答えてくれた。そして「シネマは演劇や、テレビ、本、絵画、音楽とは違うシネマ独特の世界がある。僕が映画を選ぶときはシネマならではの作品であることと、作品が観客に向かって話しかけてくれるようなものであることが大切なんだ」最初トニーさんは池田暁監督の受賞作『山守クリップ工場の辺り』を字幕なしで見た。彼は片言の日本語を話せるが、この映画の日本語はほとんどわからなかったと言う。しかし彼はその中にシネマを見た。池田監督の作ったフレームショット、編集、繰り返しのパターンとバリエーションなどに見入った。「ほら、主人公が同じ場所にもどってくるが毎回何か違う所、あれはとても気に入ったよ」そして2回目は通訳を横につけて観賞した。彼も『かなげジュース』がミステリーすぎてしばらく頭から離れなかったそうだ。 受賞直後、本誌が感想を尋ねると池田監督は興奮の中、「日本よりカナダの観客の方がよく笑ってくれたので自分も驚いた」と答えた。トニーさんの言葉どおり彼の映画はカナダの観客に話しかけることに成功したのであろう。映画祭から映画祭へ、映画館から映画館へと忙しく飛び回るトニーさんも今年で65才。気さくで話がおもしろく、また何か始めてくれそうな人物である。

Director Hiroshi Shimizu 

『キッズリターン 再会の時』 (清水浩監督)

あのキッズリターンが17年ぶりに蘇った。今回はシンジとマサルの偶然の再会からスタートする。勝てなくてボクシングを辞めたシンジに、刑務所からヤクザに復帰したマサルが「見返してやろうぜ」とはっぱをかける。傷だらけのふたりに道は開けるのか。

ソフトな笑顔と凛とした表情を見せる清水浩監督。キッズリターンの制作について「いや、僕はたまたまお前やらないかって聞かれて」と笑顔で答えてくれた。前作ではチーフ助監督を務めていた。しかし今の日本映画界ではチーフ助監督まで勤め上げても監督業にたどりつくのは難しい。新人監督は台本を書いてもネームバリューがないので、プロデューサーになぜこの映画を作るのかアピールしなければならない。清水監督自身も映画どころかビデオを作るチャンスすら待っていた。そんな時に一作目「生きない」のオファーが来た。その後海外で数々の賞を受賞してきた清水浩監督にとって、この『キッズリターン 再会の時』は監督作品5作目となる。
この映画には監督自身のこだわりがある。キャストはプロデューサーが用意した資料に監督自身が目を通し面接をして主人公を選んだ。主人公シンジとマサルの関係性だけを伝え作品に共感してくれる役者を選び、さらに音楽も2人に合うものを選んだ。シンジ役の平岡祐太は3カ月以上に及ぶボクシングのトレーニングで体を鍛えた。監督はシンジの対戦相手全てにプロボクサーを起用した。
マサルについて尋ねると、マサルは自分がヤクザの世界でしか生きられないとわかっていて、シンジがボクシングで成功してくれる事が彼自身の夢なのだと話してくれた。映画の中で恐喝してお金を儲けているヤクザ達だが、物事に義理や筋を通すピュアな姿勢も同時に描かれている。そして警察は時代の権力を象徴する。 理想や夢の前に大きく立ちはだかる権力、本当はこうであるべきなのにどこかでねじ曲げられている現実とのギャップなど、「これはボクサーやヤクザだけの特別な問題ではない」と監督自ら語る。
監督はバンクーバー在住の皆さんにもいろんな事を経験してほしいと話してくれた。「経験にマイナスな事はない、むしろ後で力になってくれる。映画を例にとると、登場人物を描くときに自分の失敗をそこに重ねたり、実際に見た人を登場させたりもできる。そして自分で撮ったものを人に見せると、自分の考えが表現できたか、また自分には何が必要なのかが見えてくる。『キッズリターン 再会の時』は男くさい話だが、同時に戸惑っている全ての人たちへのエールでもある。皆さんにこの映画を見て、明日はやってやるか!という気持ちになってほしい」と監督は締めくくってくれた。
今回の映画祭では内容の親しみやすさと高度なボクシングシーンなどが高く評価された。清水監督の『時代が変わっても若者の心に響くもう一つのキッズリターン』は、既に独自の道を走り出しているようだ。

Actress: Yoko Kakegawa and Noriko Iwasaki

『ゼンタイ』 (橋口亮輔監督) 女優:掛川陽子  & 岩崎典子
バンクーバー国際フェステイバルのレッドカーペットにゼンタイコスチュームを着て登場した女優、岩崎典子さんと掛川陽子さん。地元のカメラマンの熱い視線とフラッシュを一気に浴びて、ひときわ華やかな登場となった。インタビューの日は朝だったにもかかわらずコスチュームを着てくれていた。

ゼンタイとは?
ゼンタイとは全身タイツの略。そしてスパンデックスのコスチュームを着る愛好家のことでもある。岩崎さんは自分の容姿、年齢、職業などすべて隠れるので、普段自分の抱えているものから解き放され、自由な気持ちになれると説明してくれた。掛川さんは、橋口監督から着てみると性格が変わると言われたらしい。実際スタッフの中でも普段おとなしい人が目立つようになりその逆もあったという。宣伝の時は監督やプロデユーサーも率先して着ていたので常に仲間意識があったという。
映画について
撮影期間3日、制作費220万円、俳優41名、撮影は1~5編が台本のない自由なアドリブ、最後の6編目は監督の書いた台本で締められている。俳優は監督から4~5人のチームずつに呼ばれてはじめて顔合わせをする。おおまかな設定と役を告げられるとカメラが動き出す。俳優は台本のない演技をオチも時間もわからずに進行させる。掛川さんもはじめはどこに向かっていったらいいのか、わからなかったそうだ。髪を黒にしてほしいと言われて自分からいやだと答えている。いつカットと言われるのか予測のないまま延々と演技を続けるチームもあった。岩崎さんはコスチュームで海に入るシーンが息苦しく、肉体的にはきつかったが、撮影期間が短かったのでもっとやりたかったと語る。
仕事について
岩崎さんは自分の中で何か変わりたいという気持ちでゼンタイに応募したという。役をとろうというより自分の中でここを乗り越えたい、変わりたいという気持ちに集中したそうだ。逆に掛川さんは常に自分がどうしたいかを考え、自分自身に集中して挑んだそうだ。プライベートと仕事の両立について尋ねると、2人とも難しいがどちらも必要だと同意見だ。掛川さんは自分の好きなものの延長線上に仕事がある、岩崎さんはプライベートがあるから仕事があるのだと話す。今回バンクーバーで現地の女優達と話をする機会もあったそうだ。彼女達もオーディションで苦労したりウエイトレスをしたりと、日本の俳優と立場は変わらないと実感し、みんなで一緒にがんばろうという気持ちになったという。
あどけなく笑ったり真剣に考え込んだりと表情豊かな掛川さんと、ふわっとした不思議な存在感のある岩崎さん。2人とも女優として強い個性をもっているのでこれからの活躍がとても楽しみである。

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