吉田真由美 Mayumi Yoshida

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Director Yoshida Mayumi ©2019 maplepress.ca

女優・監督プラスの吉田真由美さん

世界へ向けて大活躍

今年7月にBC州のスポットライト・アワーズの新人賞を受賞してインタビューに応えてくれた吉田真由美さん。脚本・監督・主演した短編映画『あかし』は、その後もバンクーバーをはじめ各映画祭で俳優賞、監督賞、脚本賞をはじめ多くの賞を受賞した。つい最近はロサンゼルスの映画祭に招待され、ハリウッド通りにある世界的な劇場TCLチャイニーズ・シアターでも上映された。 11月6日、カリフォルニア州のロサンゼルスのルーズベルトホテルで、アマゾン・テレビドラマ『The Man in the High Castle高い城の男』シーズン4のプレミアを終えた吉田さんに話を聞いた。

主題は『ストーリーテラー』

女優として活躍した『高い城の男』はシーズン4がシリーズ最後となり今年で全ての撮影が終わった。吉田さんはそのかたわら、声優としてNetflixのアニメシリーズ『Hello Ninja ハロー・ニンジャ』にも出演していた。そこでも2役をこなした彼女の多才さが伺える。

バンクーバーとロサンゼルスを常に行き来している吉田さん。一言で『ラッキー』と言ってしまえばそれまでだが、外部から見るととても大変そうな仕事。特にハリウッドは敷居が高く、過去の栄光を保つ仲間意識が少なくもない。男優でもアジア人としてなかなか満足な仕事をもらえる場所ではない。だがストレスどころか、むしろ自分は楽しんでいると話す吉田さん。その理由を聞くと、監督と脚本をしたおかげで視野が広がり、役者として撮影の在り方が理解できた。さらに役者をしてきたことで、今度は監督として俳優たちとのコミュニケーションがしやすくなったという。

その言葉通り吉田さんは、女優、監督、声優、脚本、プロデューサーと多くの帽子をかぶって仕事をこなしている。自分の能力を養うためにマルチを目指すアーチストはいるが、道が少しずれて自分の夢見ていた場所にたどり着かないことが多い。吉田さんはとりあえず何でもするのではなく、ストーリーテラーという主題を心がけている。それ故に彼女の心中でエンジョイしながら働く姿勢は変わらないのだと教えてくれた。

「これは向上効果です。全ての経験がプラスに働いて良い影響を与えてくれるんです」とさわやかに答えてくれた。そして「読者の皆さんも何でも時間を持って挑戦して下さい」と言ってくれた。問題にぶつかってもそれをチャンスと見る、さらにあきらめなければ必ずどこかで開いているドアにたどり着くというポシティブ思考はぜひ見習いたいものだ。

映画について

監督として4作目となる『Tokyo Lovers』は、Nach Dudsdeemaytha監督・プロデューサーとの共同作品で、バンクーバーのアジア映画祭で演技賞、東京では監督賞をそれぞれ受賞している。 東京、京都、神奈川と3都市で撮影したこの作品は、恋愛に行き詰まって悩む一人の女性のクリスマスを描く。ロマンチックなテーマで女性なら必ず見たくなるような作品。吉田さんはそんなバンクーバーのファンのために、今月(11月28日)からインターネットのVimeoを通じて一般無料公開してくれる。クリスマスに間に合うようにという配慮なのでぜひ映画鑑賞してほしい。

また最新作『In Loving Memory』は、20年前に家を出て行った父親の遺体と対面する女性のお話。これはウィスラー映画祭で12月にワールド・プレミアされる作品。『Kim’s Convenience』のAndrea Bangさん主演で、彼女の姉Diana Bangさんと吉田さんが共同で監督製作している感動物語。

さらに10月はバンクーバーで開かれた48時間映画祭に初めて参加した。それはこれまでの予定になかった出来事で、「初めてホラー映画を撮ったんです」と吉田さんは照れ笑いした。タイトルは『Trim』で、自分のルックスに執着した女性を描くホラー映画。この作品はなんと映画、脚本、演技部門で独占受賞している。映画祭側に権利があるため公開はまだ未定。

そして吉田さんが最近書き終えた脚本は長編作版の『あかし』。短編が大ヒットしただけに今は慎重なミーティングを重ねている最中。来年撮影・製作に取り組む予定だそうだ。

私生活とのバランス

来年の抱負について尋ねるとふと時間をおいて「やっぱりバランスが大事ですね」と答えた吉田さん。いろいろな仕事をしながら感謝するかたわら、オフの時間も同じように大切にしたいと話した。特に普段仕事に没頭しすぎていると時々周りが見えなくなってしまう。一歩引いて余裕を持つことをこの夏から心がけているそうだ。また私生活を充実させると、自然に新しいアイデアも生まれてくる。これからも自分自身がインスパイアされる時間を持ちたいと締めくくった。

吉田さんの元気なパワーの源は、プライベートな自分も大切にしているからという雰囲気が伺えた。インタビューが終わった後、「あなたのお時間をありがとうございました」と丁寧にお礼を言ってくれた吉田さん。記者の時間を考慮してくれる女優さんはまず少ない。これが彼女の人柄で日本やアメリカに招待される人気の秘密なのだろう。地元バンクーバーの日系有名人を代表する女優・監督の吉田真由美さんをこれからも応援したい。

 

2019年7月の新聞記事:

北米で活躍する女優・監督:吉田真由美さん

素顔はフレンドリー

映画『あかし』の女優・監督を務めた吉田真由美さんが、BC州の映画界の女性を対象にするスポットライト・アワーズの新人賞を受賞した。

7月2日の火曜日、バンクーバー・エールタウンにあるラウンドハウス・コミュニィティー・センターでスポットライト・アワーズの授賞式が行われた。1999年からBCフィルムコミュニィティーから特に優秀な女性アーチストを対象に選ばれる名誉ある授賞式。20周年記念となる今年の新人賞に初の日本人女性が選ばれ、地元の日本メディアが集まった。

俳優、監督、コメディアンなど多くの映画関係者が登場するセレモニー。この日、バンクーバーの女優・監督である吉田真由美さんがさっそうとレッドカーペットに登場した。スポットライト・アワーズの新人賞は新しいアーチスト、さらにキャリアチェンジ(例えば俳優から監督に)した人を対象に選ばれる。吉田さんはこれまでバンクーバー在住のアジア系女優としてBC州の芸術に貢献していて、最近はAmazonビデオ『高い城の男』の皇太子妃の役でも脚光を浴びた。今回の短編映画『あかし』は監督としてのデビュー作だが、すでに16の映画祭で上映され、Telus Storyhive(短編映画部門のグランプリ)、NBCUniversal短編映画祭(優秀作家賞)や、バンクーバー国際女性映画祭・短編映画部門のMatrix Award など多数の賞を受賞している。

自然なバイリンガル育ち

吉田さんには『日本人』『日系カナダ人』という言葉より、無国籍感覚の『アジア』の方が似合っている。それはこれまでの彼女の育った経歴がそうさせるようだ。

朝日新聞のジャーナリストだった父に連れられて幼少期からワシントンDC、ブリュッセル、東京など海外のインターナショナルスクールで育った彼女。大学も青山学院とバンクーバー・フィルム・スクールを卒業。彼女のインタビューに応ずる言葉も英語と日本語が半分ずつ自然に飛び出してくる。勉強で身につけた『バイリンガル』というより、子供の頃からごく自然に育ったという明るさを感じる。

ベルギーのブリュッセルでブリティッシュ・スクールに通っていた吉田さん。そこはとてもインターナショナルだったという。『グローバル』『国際的』というような言葉の響きは重いが、そこでの経験はまさにその言葉どおりで自分を変えたという。例えば友達の一人はイスラム教徒でファスティングをしていた。「今日は何も食べないの」という友達に「あ、そうだね」みたいな会話がごく普通だったという。

現に彼女の出演しているドラマを見るかぎり、日本女優という発想は出てこない。多くの人はこれまで彼女は国籍不明のアジア系アメリカ人女優だと思っていたはずだ。英語を話すピッチとリズムが完璧で、むしろ役によっては黒人女性の持つパワーすら感じさせる。初対面で「日本語でよろしいですか」と思わず聞いたぐらいだ。

これまでアジアと北米のカルチャー間のスペースを行き来してどちらからも受け入れてもらえたが、自分は浮いているような存在だったという吉田さん。やがて自分の中でそんな自分を素直に認めたという。

映画『あかし』について

デビュー作でいきなり今回の新人賞や海外の映画祭で受賞に輝いた映画『あかし』。吉田さんは自分で脚本を書いて、監督・プロデュース・俳優を務めた。初めての経験で全てをこなした今は、それがあたりまえになってきていて「4つぐらい帽子をかぶっていないと大丈夫かな」と不安にすらなるそうだ。『あかし』は現在Youtubeで無料配信しているので必見。

内容:

北米に住む日本人女性・かな(吉田真由美)が新しい環境に疲れ切っている中、ボーイフレンドから交際を断られる。そんな時、日本から連絡が入り祖母が亡くなったという知らせを受ける。日本に戻る中、かなは祖母との過去の会話を回想する。孫が外国に行くのを心から喜んだ祖母。だが海外で生活するのは難しいと悩むかなに、祖母は祖父とのある秘密を打ち明けた。祖母の結婚は決してハッピーエンドではなかった。日本に戻ったかなは祖母の辛い過去を自分なりに受け入れる…。回想シーンと現在のカメラワークについひきこまれる女性監督ならではの優しい作品。

監督も女優も物語の語り手

キャリアを変えての苦労を聞くと、女優から監督になるとまず周りに対するボキャブラリー(語彙)が足らないと感じたという。考える暇もないくらいただやるしかない、という思いで進めた。「ただ今から思えば脚本、監督、女優、プロデューサー、どれもストーリーテラーという点で同じだったんです」と前置きし、「映画のストーリーは特に個人的なものだったので、観てくれる人にこのお話を伝えたいという思いから全てをこなせられたのかもしれない」と締めくくった。

吉田さんは女優として11月に放送されるTVドラマ『高い城の男』のシーズン4に出演している。監督として4作目の『Tokyo Lovers』は、Nach Dudsdeemaytha監督との共同作品で、この夏8月17 日と18日にロスアンジェルスで上映される。東京、京都、神奈川と3都市で撮影したこの作品は恋人のいない女性が特に寂しいといわれるクリスマスを皮肉ったもの。クリスマス頃にバンクーバーで一般上映できたら最高だと語ってくれた。 今月撮り終える最新作は『In Loving Memory』で、20年前に出て行った父親の遺体と対面する女性の話だ。これはバンクーバー在住のDiana & Andrea Bang女優姉妹と監督共同製作していて今年中の上映が期待される。さらに吉田さんが今書いているのは初の長編作の脚本で、今年の終わり頃に撮影・製作に取り組む予定だ。

「この賞はこれまで誰にも伝えられなかったお話に一生懸命取り組んでいる、全ての勇気あるストーリーテラーに捧げます」と受賞スピーチをした吉田さん。彼女の成功の秘訣は、元気よく話をして良く笑い、周りに優しいことなのかもしれない。映画界で『アジア』を背負い、自分で企画をして全てを引き受けるのは並大抵のことではない。だが持ち前の明るさで彼女は今後も監督・女優として多いに活躍してくれるだろう。

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