The Winds of God

人生って何？

数年前、ある映画監督がカナダに遊びに来た時「小津、黒澤以外で有名な日本映画はありますか？」と聞かれた。その時「舞台映画ならすごいのがありました」と答えたのがこの『ウィンズ•オブ•ゴッドー零のかなた』だった。

90年代、日本人俳優はまだ三船敏郎か北野たけしというような時代に、誰も知らない舞台が日本からやってきた。スポンサー、監督、俳優などほぼ全員が英語を全く話せない日本人という。しかもこの舞台はハリウッドとブロードウェイ、その後ロンドンまで行くらしい。”emotionally uptight”（冗談も通じないぐらい固い）日本から来て大丈夫か？、というような新聞の記事が目に飛び込んできた。

しかも北米がもっと驚いたのはその舞台内容が神風特攻隊だったこと。当時も日本は右翼が強い、戦争の加害責任を認めない、原爆のことしか教えないというような意識がカナダにもあった。大学で慰安婦問題が討論された時、加害者の息子と被害者の娘、それぞれの母親たちの気持ちは全く違う、これは平行線のようなものだと教授が締め括っていた。それなのにそんな加害者の息子たちに世界が共感できるのか？

だが当時の評論家が真っ先に度肝を抜かれた。日本人俳優たちのコミュニケーション、誤解の連発に会場は大笑い。主人公を演じた今井雅之さんは声が大きく力強くて笑顔が可愛いといわれ、相棒の山口粧太さんは感じの良い日本人青年で何の役でもこなせそうと評された。二人とも漫才風で実に面白くユーモアたっぷり。加えて日本人らしく礼儀正しくて繊細。ストーリーもリズム良いテンポですっと入っていけて「これは素晴らしい」と思った。

「男の夢を追いかけて力いっぱい生きていくのが若者の特権だろう。お国のために肉体がバラバラになって吹っ飛ぶのが青春なのか。。。」戦争の悲惨さでなく、普通の若者の生き方に共感できた。「人生って何？」それは国籍を超えて観客に感動を与えた。

この作品はなんと国際連合本部にて上演されて、国際連合作家協会から芸術賞を受賞した。「英語はもういいから今度は自分たちの日本語で」とリクエストされた数年後にはヘッドホン通訳で公演されたようだ。

この勇敢な舞台は、Los Angels Timesから”emotional and confrontational”と太鼓判をおされ、コロンビア大学から”multi-talented”といわれた今井さん。その名のとおり彼は原作の小説を書き、脚本をつくり、主演までしていた。なかなか映画化されなかったから先にニューヨークの舞台で、というアメリカンドリーム的な発想も新鮮だった。アメリカに憧れてここまでがんばった日本人は後にも先にも彼一人だったような気がする。空手、柔道、銃剣道をこなし、千葉真一さんから『燃える若者』といわれた彼をもっと見たかったのは日本人だけではない。

余談だがニューヨークのブルックリンに『Samuarai Mama』をはじめとする美味しい日本レストランのチェーン店がある。そのオーナーである鈴木誠さんも『ウインズ•オブ•ゴッド』のニューヨーク公演で渡米した俳優の一人だった。

今井さんのまいたタネは確実に育っている。昼下がりのひととき、この奈良県大和郡山公演というポスターを見つけられて嬉しかった。

“The Winds of God” is a moving story about two young Japanese men who had a serious motorcycle accident and return to live as Kamikaze pilots. During World War II, they refuse to sacrifice their lives in suicide missions for the country. The film portrays young boys who did not choose to go to war.

The sensitive story is written with humor by Masayuki Imai. He interviewed more than 100 ex-Kamikaze veterans and realized that the war never ended for them.

The title “Kami” means God and “Kaze” means Wind.